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会長挨拶


同窓会会長  安藤 孝夫

 新年明けましておめでとうございます。皆様には、令和7年の新春を、晴れやかにお迎えのことと、心からお慶び申し上げます。令和7年度の大阪大学工学部・工学研究科化学系同窓会[会報57号]の発行にあたり、ご挨拶申し上げます。旧年中は、本会の活動に対し格別のご理解とご協力を賜り、誠に有難うございました。本年も会員の皆様のご支援ご協力を頂きながら、会員相互の繋がりをさらに強化し、活発な同窓会にできればと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 米国で第2次トランプ政権が誕生し、トランプ氏は忠誠心を判断基準に側近を固め、もはや誰もトランプ氏を止めることができなくなり、予測可能な混乱と分断を引き起こすことが懸念されます。また、日本では国会で石破政権の真価が試されますが、トランプ政権と渡り合うことになる自公政権は、先の衆院選で過半数の議席を獲得できず、さらに「決められない政治」体制になる可能性もあり、世界の地政学的変化を契機に政治、経済、経営、社会、生活のあらゆる面で混乱と分断が進む可能性を孕んでいます。また、団塊の世代すべてが75歳以上の後期高齢者になり、国民の6人に1人が後期高齢者となる「2025年問題」に直面しますが、大きな変化が起きるときにはチャンスも生まれます。「2025年問題」は働き方改革でも、企業に抜本的な見直しを迫ることになります。人的資本の情報開示の義務化からですが、人事を経営課題として進めてきた企業とそうでない企業との差が開き、従業員本位の働き方を実現している企業に人材が集まります。

 日本は「安くて良いものを作ることに」こだわり、シェア争いを続けてきましたが、高くても社会課題を解決し社会・顧客に貢献できる高付加価値の製品開発を行うべきです。昭和の高度成長期のようなワンパターンの仕事に従事する人材では、これからの混乱と分断のグローバル競争に勝ち残ることはできません。各自の心理的安全性を確保しながら、多様な人材による、多様な働き方が重要です。人手不足解消のためだけではなく、それ以上に “ 多様性 ” を活かすために、女性の活躍推進が重要ですが、日本のジェンダーギャップ指数は、全世界146か国中、118位と女性が活躍できていません。

 デフレ時の経済政策の主役は財政出動でしたが、新型コロナウイルス禍ではさらに拡張しました。昔のままの財政政策で「まだデフレだ」と思って動かない企業への何かしらの補助に動けば、デフレ脱却の好機を逃がします。インフレ社会で大企業も中小企業も競争すべきで、政府はそれを妨げるような補助金で競争を緩めてはならないと思います。防衛や少子化対策、社会保障といった財政需要がすでにある中で、あえてやってもいい減税は思い切った省エネ減税だと思います。技術進歩を促し産業にプラスになるやり方ならいずれ税収として返ってきます。

 人が足りない時代は賃金を上げてから生産性を上げるようになります。人件費が上がるなら、デジタルトランスフォーメーション(DX)などに投資するようになります。今後は人を集められない会社は新陳代謝の対象になり、経営者が優秀なら会社は継続するし、生産性の高い企業に人が移っていきます。また、大企業は中小企業に価格転嫁を認め値上げを受け入れていかねばなりません。健康で働きたいだけ働ける社会を作るには全世代でリスキリング(学び直し)が必要ですが、生涯年収が増えれば消費にもプラスになります。労働移動はすでに始まっていますが、政府はどのようなスキルを身につければどの程度の年収になるかが分かるプラットフォームをつくり、さらに移動を後押しすべきです。日本のコスト競争力が落ちたのはエネルギーコストが高いからで、低廉なエネルギーは恒常的な賃金向上につながると思います。次世代原子力発電「小型モジュール炉(SMR)」や核融合発電の実験を日本でできるようにし、安全で安心な技術を追い求めていくのはまさにイノベーションです。政府が原発の新増設や建て替えの選択肢を否定すれば、技術者を養成できなくなるし、日本は低廉なエネルギー源がなくなり、国際競争力がさらに落ちて賃金は上がらなくなります。人口知能(AI)にもデンターセンターにも半導体製造にもエネルギーは必要になります。

 さて、人類の持続可能性を脅かす地球規模の危機である気候変動問題は人類が直面する課題でありますが、その解決のためには、自然科学と社会科学が生み出す「総合知」をベースに、複雑に分野、技術が絡み合った科学の総動員が求められます。実際に科学技術を社会に提供して社会を変えていくのは産業界であり、アカデミアによる知の源泉の深耕はもちろん必要ですが、一歩踏み出すべきは中長期的な視点で産業界とアカデミアが同じベクトルで向き合う産学連携が重要です。日本の化学は世界をリードし、日本の化学企業は高い付加価値を創出する産業であり、地球環境問題においても、化学・化学技術が先導役となり解決に繋げていくことは、社会からの期待が大きいと思います。サイエンスにおける学術の役割は基本的に真理の探究ですが、化学にはイノベーションに直結する要素があり、アカデミアはもっと社会実装を意識すべきと考えます。

 世界経済は分断と混乱が進み、化学業界におきましては、原油価格は不安定となり、事業環境は予断を許さない状況にあります。そのような中、企業は柔軟で多様な働き方の実現や、労働生産性の向上を行い、デフレマインドから脱却して積極経営を進め、設備投資や研究開発投資を活発化して、新たな成長機会の創出に取り組んで行かねばならないと思います。

 現場において、一人ひとりの創意工夫によってイノベーションを生み出す力こそが日本の強みであります。これから更なる激動の時代を迎えますが、私たちの出身である化学系教室には、主体性や説明能力の向上に資する授業への改革を行うとともに、世界をリードする独創的な研究により我が国の科学技術の発展に寄与しながら、独創性に富み、グローバルな視点とリーダーシップを持つ多様で質の高い人材を育成し社会に送り出し、今後とも一層我が国の産業の発展に寄与して頂くことを期待しています。

 末筆ではございますが、会員の皆様の益々のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げるとともに、皆様のご健勝と一層のご活躍を祈念しまして、私のご挨拶とさせていただきます。

以上